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「信州上田10ストーリーズ」の10本の小説に出てくる日本遺産「信州上田・塩田平」の構成文化財についてお話するシリーズ。3回目です。
今回は、岡沼美樹恵さんの「グランパのバケットリスト」に登場する「岳の幟」です。
主人公は、ハワイに住むコルビー・ユキコ・サカグチ。28歳の日系四世。
日系二世のおじいちゃんが亡くなり、遺品を整理して出てきたのが「バケットリスト」。死ぬまでにしておきたいことを書いておくもの。その中に「日本のウエダに行く」とあったので、彼女が上田に行ってみることにしました。
上田にやってきた彼女、ひいおじいちゃんの出身お下之郷にある生島足島神社や、別所のお寺、別所神社などに連れて行ってもらいます。
そして、「岳の幟」を見に行きます。幟の行列、ささら踊り、三頭獅子舞を堪能。
いろいろな人たちと交流できたコルビー。家族のように親しくなったお家から「いってらっしゃい!」と送り出されてハワイに帰ります。
この話に出てくる「岳の幟」。国の選択無形民俗文化財に指定されています。
何十本もの幟を竹竿に括りつけて別所温泉の街中を練り歩きます。そして最後は別所神社に奉納。
このあたりはテレビでも新聞でも取り上げられるので、たくさんの幟が練り歩く姿は多くの人がご存じです。
でも、結構知られていないのが、そのスタート。朝早く、夫神岳に登って、頂上にある祠で地区の代表の人たちが幟の反物を供えて神事を行います。
この祠、「龗」(おかみ)と言います。
ちなみにちょっと横道にそれますが、夫神岳は別所と青木村の境にある山で、別所では「おがみ」と呼び、青木では「おかみ」と言います。
「龗」の字は、「雨」の下に「ロ」が横に三つ並び、その下に「龍」。水をつかさどる神様です。ここでは「九頭竜神」。
「岳の幟」は、室町時代、干ばつがひどいため夫神岳に祈ったところ雨が降ったので、感謝の意味で頂上に祠を建て、幟を奉納したことがその行事の始まりだそうです。
この祠、東側の別所温泉方向を向いています。祠を建てるとき、別所温泉側と青木側でどっち向きにするか決めようとして、牛と馬でどちらが早く頂上に着くか競争することになり、くじ引きで牛になったのは別所温泉、馬の青木。早く頂上に行けそうな青木の馬は、途中で湧水を見つけ休憩してしまい、牛に負けてしまった。「うさぎとかめ」のような話ですが、そんなことで祠は別所温泉方向を向いています。
ここで神事を行った後、竹竿に幟をくくりつけて山を降ります。
そして、村の人たち、ささら踊りの子どもたち、三頭獅子と合流し一緒に温泉街を練り歩きます。
途中、「大湯」など4か所でささら踊り、三頭獅子舞を披露し、最後に別所神社です。
今は「お祭り」として行われていますが、最初は「雨乞い」。ため池でたくさんの松明を燃やしたり、お地蔵様を川に投げ込んだり、雨乞いのやり方は塩田でもいくつかあります。ため池や用水で水はたくさんありますし、農家が減って米作りも少なくなったので雨乞いをすることも最近はありませんが、昔の人はたいへんだったんだろうなあ。(F森)